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<スピンオフ> 第1章 安西航 7

last update 最終更新日: 2025-07-12 19:29:20

 翌日――

 6時に起床した航は着替えを済ませるとさっそくPCに向かい、ポスター作りを始めた。

PowerPointを起動し、茜が送ってくれた猫の写真画像を挿入して文字を打っていく。

カタカタカタカタ....…

航は朝食をとるのも忘れるほどにポスター作りに専念した――

――1時間後。

「よし、こんなものでいいかな?」

航はPC画面を何度も確認し、構成や構図におかしな箇所は無いかどうか確認するとレーザープリンターの電源を入れた。

ガコン

印刷機の起動する音が響く。

「とりあえず、1枚だけ印刷してみるか……」

航は呟くと、レーザープリンターに耐水紙をセットし、次にPCの印刷画面を表示させて枚数に「1」を設定すると印刷をかけた。

ウィ~ン……

途端に機械音が流れ始め、ガーッという機械音と共に1枚のA4サイズの用紙が吐き出された。

「よし、どれどれ……」

航は刷り上がったポスターを何度も何度も見直す。

「よし……これでいいだろう。よし、残り99枚か」

枚数を99枚に設定し、印刷をしている間にヤカンに水を入れてガス台に火をつけて、湯を沸かし始めた。

「フワアアア……」

大きく欠伸をして伸びをすると食器棚からマグカップとインスタントコーヒーを取り出し、コーヒーをカップに移す。

「……そう言えば父さんに言われてたっけ……。うまいコーヒーを淹れるようになれって。あいにく当分俺にはそんな余裕は出来そうにないけどな」

航は苦笑いするのだった……。

 お盆にコーヒーの入ったマグカップ、皿の上に乗せたトーストを事務所に運び、テーブルに乗せるとPC の様子を見た。するとすでに印刷は終了している。

「食べたらポスターを貼りに出かけるか……」

ポツリと呟くと航は簡単な朝食を食べ始めた――

****

「ありがとうございましたー」

航は頭を下げると紙袋に入れたポスターを持ってマンションを後にした。マンションの管理人に掲示板に自分の作成したポスターを貼らせてもらったのだ。

「よし、残りは後半分か……」

航はマンションの外に止めてあった単車からハンドルにぶら下げていたヘルメットを被り、単車にまたがるとエンジンをかけた。

「さて、行くか」

航はエンジン音を立てると、次の目的地へと向かった。

****

 16時――

「ふう~やっと終わった」

猫のいなくなったマンションを中心に半径100mの範囲で100枚全
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